大判例

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東京高等裁判所 昭和29年(ネ)1395号 判決

訴外渡辺勝太郎が昭和十一年十二月頃控訴人に対しその所有にかかる東京都中野区千光前町二五番地所在木造瓦葺二階建一棟建坪一七坪七合五勺、二階一〇坪を賃料一カ月金三十円毎月末日払として期間の定めなく賃貸したところ右勝太郎は昭和二十七年三月五日死亡し、その妹である被控訴人両名において遺産相続により右家屋所有権を取得するとともに右賃貸借における賃貸人の地位を承継したこと、被控訴人両名が昭和二十七年十一月二日控訴人に対し右賃貸借解約の申入をしたことは当事者間に争がない。

成立に争ない甲第一号証の記載に原審及び当審における被控訴人両名本人尋問の結果をあわせると被控訴人佐羽ふくは戦時中その夫と死別し遺産のみるべきものはなく、年齢も六十に近くこれといつた定職もない上多発性リュウマチの持病があつて外に出て十分な働きをすることができず、昭和二十七年以来甲府市立母子寮に収容されて生活保護法による扶助を受けていたが、その間娘は満十八才に達して右の扶助を受ける資格を失い、昭和二十八年一月頃からは同寮長から退去の請求を受けている有様であるが、被控訴人ふくには本件家屋以外に財産もなく、被控訴人渡辺ちよの家、亡勝太郎の家族らの家もいずれも被控訴人ふくを入れるだけの余裕もないので一日も早く母子寮を退去してこの家屋で娘とともに下宿業を営み住居の安定を得るとともに生活の資を求めようとしているものであることが明らかである。控訴人は被控訴人ふくは甲府市に永住するのが希望で本件家屋を自ら使用する必要なく、ただ遺産分割の方法として本件家屋を他に処分しようとしてそのため本件明渡の請求をするに過ぎないと主張するがこのような事実を認めるべきならんの証拠はなく、その他に前認定をさまたげる特段の事情を認めるべき証拠はない。

次に成立の争のない甲第二号証の記載に前記被控訴人本人尋問の結果原審における控訴人本人尋問の結果に本件口頭弁論の全趣旨をあわせると、控訴人はその妻及び一男一女とともに本件家屋に居住し、控訴人自身は附近の専門店会の事務長として勤務するとともに中野防犯及び防火協会並びに日赤中野支部等の役員を兼ね、息子二人はそれぞれ会社員として収入をあげている外、本件家屋の二階の二間は長女の夫訴外高槻義信に賃貸(転貸)したとしてその間に前記解約の申入の後公正証書による賃貸借契約を結び、現に長女とその子がそこに住まつているが、右高槻自身は別に住居をもち本件家屋には時々通つて来るという実状であることを認めることができる。この転貸に賃貸人の承諾を得たという事実はこれを認めるべき証拠がない。

以上認定したところによつて被控訴人ら及び控訴人双方の事情を比較して考えてみれば、被控訴人ふくの方には本件家屋を必要とするさしせまつた事情があるのに、控訴人の方は比較的に余裕があり、この家屋に居住するのでなければ直ちに生活にも困窮するというほどのものではないことがうかがわれるのであつて、被控訴人らの本件解約の申入は正当の事由あるものと解するのを相当とする。被控訴人渡辺ちよ自身にはかくべつ自ら本件家屋を使用する必要のないことはおのずから明らかであるが、このことはその姉であり共有者の一人である被控訴人ふくに本件家屋を使用する必要があること前記のとおりである本件において、右解約申入について正当事由あることを否定せしめるものではない。また控訴人は本件家屋全部について解約の必要はないと主張するけれど、被控訴人ふくだけがただ住むというのであれば全部の明渡を必要としないということもできようが、同被控訴人は娘とともにここに住みかつ下宿業をして生活をたてようとするものであつて、同被控訴人の年齢身体の状況その他前認定の事情によればそうするよりほかにとるべき手段はないと考えられるのであるから、一部の明渡で足りるとすることはできない。従つて本件賃貸借は右解約申入の後六カ月を経た昭和二十八年五月二日限り終了したことが明らかである。

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